高校受験

2023年度都立高校入試の講評と予想平均点。(理社編)

大田区大森の進学塾、大森山王学院の山口です。

前回のブログに続いて、今日は2023年度都立高校入試に対するコメント。今日は理科・社会について。

 

社会

難しくなったなぁ、と思います。

私は半年くらい前のブログで、「2023年度の都立入試の社会は前回(2022年度)より簡単になるだろう」と書きました。昨年(2022年度)の社会はそれくらい難しい問題だったからです。(その年の6月に発表された『平均点』も社会としては過去18年間で一番低い点数でした。)

しかし今年の社会は、結論から言うとその2022年度の問題をさらに上回るくらい難しい問題がいくつかあったと感じます。

ただし、今年の方が「常識的」な難しさだった、とも感じます。

ここ最近の都立高校の「社会」の問題は、学校の教科書を見ても答えがわからない問題が増えてきました。グラフなどを見ながら、「すでに知っている知識」をフル稼働させてなんとか解く、という問題です。大学入試の問題などはもともとそういう形式ですから、入試問題としては間違っていないのかもしれません。ただし、公立高校の問題でそれはどうかな、と思ったりもします。塾などに通えない受験生も沢山受験するわけですから。

今年はどうか?

難しい問題は増えましたが、「学校の教科書を隅から隅まで読んでおけば、ほぼすべての問題に答えられるかな」と思う内容でした。そういう点で考えると、「非常に難しかった」とはいえ、今年の問題作成者はかなりの上手(うわて)だな、と個人的に感じました。

 

今年の都立入試の「社会」の問題が難しく感じられた要因は、主に二つあると思います。

一つは、昨年度に改訂された教科書になってから新しく追加された(より細かくなった)内容が入試問題で出題されたことです。

具体的には、

歴史:大問4の② 「大阪紡績」はいつできたか?

※「富岡製糸場」や「八幡製鉄所」のできた時期は受験生の多くが知るところでした。昨年度に新しくなった歴史の教科書は「明治の産業革命」(明治初期の軽工業から、明治後期の重工業への変遷)を詳しく取り上げるようになりました。新しく1万円札の顔になる渋沢栄一の功績に絡めたいところもあるのでしょうし、明治産業革命遺産が世界遺産に認定されたこともあるのでしょう。

実際のところ、大阪紡績がいつできたかを知らなくても、昨年度同様「すでに持っている知識」をフル稼働させる訓練ができていれば解ける問題でした。「官営の富岡製糸場ができて、その後『民間』の綿糸工場もできたはずだ。その後重工業の時代になって官営八幡製鉄所ができたはずだ」と考えた受験生は、富岡→大阪紡績→八幡、の順番で解答できたはずです。

公民:大問5の② 公共料金の認可方法

今までは「国が認可しないと、勝手に金額を変えてはいけないのが公共料金」という程度の知識で十分でした。でも新しい教科書は「国が認可する公共利金、政府が認可する公共料金」といった具合に、公共料金の覚え方が細分化されています。今回の都立高校の問題は「所轄省庁が審議しているもの」→つまり「国が認可する公共料金」ということになります。

この問題を見たとき、「あ~、教科書を隅々まで見て覚えるクセを生徒達につけさせられなかったな」と私自身反省させられました。「テクニックで解く力」ばかりを優先していたと。上記の「歴史大問4の②」のような問題はテクニックで解けます。でもこの大問5の②は絶対的に知識がないと解けないです。新しい問題・知識に順応する力が必要でした。

大問5の③の法人税と固定資産税の課税先が「国」か「地方」かという問題。これは以前から教科書に載っている知識でした。ただし前述の「公共料金」の問題の続きで、かつ「固定資産税」という中学生にはなじみのない税金の問題に、少なからず多くの生徒は混乱した様子でした。

大問5の④の記述は、ここ数年、「文章読解力の上位者向け」問題になりました。昨年度の「情報通信技術者」の問題も文章を理解し、説明することが比較的難しかったですが、今年の「社外取締役」の問題も然りです。でも、こういう問題は意図的に含めたほうがいいでしょう。問題の難易に高低差をつけること自体は大切なことです。とりわけ思考力の深さを測る問題が少ないと、受検達の学力を深さを測ることもできず、ひいては一生懸命勉強をしてきた受験生たちに失礼だと私は思います。とはいえ、難関な問題を出題するときにただ知識だけに頼った問題になっていないほうが良問だと思います。問題を解く中学生が「社外取締役」という存在を知らなくても、文や資料をしっかり読み切ることで内容を理解できる問題でした。こういうのは大切だと思います。

今年の都立入試「社会」の問題で唯一、「これはおかしいんじゃないの?」と思ったのは大問③の2、空港の貨物取扱量の問題です。

那覇空港、羽田空港、関西国際空港、成田空港の貨物取扱量が記載されている資料。「羽田空港」はどれ?という問題です。

資料集のグラフとかを隅々まで見ているような「社会オタク」の生徒ならすぐに答えられます。貨物取扱量は①成田、②関空、③羽田、の順番です。

ただし、入試問題でなんの前提もなくこの資料だけを載せて中学生に答えろ、というのは公立高校の問題としては「嫌がらせ」でしかないです。

工業地帯・地域の順位を答えろ、ならよくわかります。教科書の資料などにも載っているものですから。空港の、しかも「貨物取り扱い量」は一部の資料集などにのみ載っているものであり、それを公立の入試問題に出すのはかわいそうです。もちろん、大問⑤の4のように、前提となる「説明」や考察できるなんらかの資料を載せるならありだと感じました。でも、この大問③の2は「硬い骨をそのままお皿に載せて出した料理」のような乱暴さを感じる問題です。「国内貨物取扱量」などや「取り扱い品目」なども資料には載せられていましたがまったくヒントになっていないグラフです。

さて、今年の「社会」の問題が難しく感じられた理由の二つ目ですが、それは「グラフや資料の読みにくさ」にあったと私は思います。

今までの社会は記載されているグラフや資料に、「これがどんなグラフなのか」、「どういうことを説明している資料なのか」を資料の表記したり説明したりしているものがほとんどでした。しかし、今年の入試問題の資料は、ただ図がポン、っと置いてあるだけ、ということが多かったと思います。大問③の3「モーダルシフト」の問題にある「自動車と鉄道」の二酸化炭素排出量のグラフがまさにそうです。

もちろん、設問の文章中には、それぞれのグラフの趣旨が書いてあります。「しっかり読めばわかるだろ」と言われればそれまでです。大学入試の問題であれば、そういう資料の添付があたりまえですし、入試問題としてはそれでもいいのかな、と私も思います。

ただ、今まで都立の過去問を何年も解いてきた受験生たちは読み解きづらさを感じたでしょうね。「社会を解く時は普段より集中量が必要だった」と語った入試帰りのある受験生の言葉がそれを表しています。

私は、出題者が意図的にこういう傾向で資料を載せたならそれでいいと思います。「今までの問題の資料は簡単すぎる。受検者はもっと読み解く力をつけるべきだ。」という意図があるならそれは出題者の自由ですし、受検者はその壁を乗り越えるべきだと思います。

もし、出題者が「意図せずに」ただ資料を載せただけなら問題だと思います。無神経の極みです。

私は後者のような気がしています今回の社会の入試問題は全体的に「雑さ」が目立つからです。大問1の3、安全保障理事会の常任理事国を列挙して問題などがそうでした。別に「解くこと」自体になんの支障もありませんが、なぜ「小学生のワープロ」みたいに国名が列挙されているんでしょうか?

生徒達の人生を左右する問題を「やっつけ仕事」で作られてはたまったものではありません。

理科

都立入試の「理科」は一昨年度(2021年度)が一番難しかったと思います。理由は問題の説明が異様に長くなったこと、そして設問が「完答」問題になり、すべてを正解しないと点数にならない、ということになったからでした。昨年(2022年度)、理科の問題はその反省からか少し簡単になりました。そして今年。相変わらず、文章は長いし、問題は完答を必須とするものの、読んでいて「随分とシンプルでわかりやすくなったな」と感じました。繰り返しますが、相変わらず説明文は長いです。でも、解きやすくなった。なんというか「理系臭さ」が薄くなったな、という感じです。

問題傾向としては、大問1と大問2の基本問題はここ3年間で一番解きやすい問題。大問3が天気、大問4が人体、といわゆる「二分野」が続いたことでスタートから「解きやすさ」感が出ていたのがよかったな、と思います。決して今年の「共通問題の数学」のように「簡単すぎる」ことがなく、偏差値40台の受験生は大問①・②がしっかり解ける。偏差値50前半の受験生は大問③・④までは解ける、というような流れができていたように感じます。

大問⑥の電流は、相変わらず設問を読み切るのが難しく、質問にたどり着くまで時間がかかるような問題です。それでも、一昨年の(入試問題で出た)電流の問題よりは解きやすいかな、という印象です。

 

理社の予想平均点。

理科:21年度が47点、22年度が61点。今年は61点くらい。(プラマイゼロ)

社会:21年度が54点、22年度が49点。今年は52点くらい。(プラス3点)

と予想します。

「え、『社会は難しい』って言ってたのに平均点去年より上がるの?」

私はそう思います。というのは、難しい問題がいくつかありましたが、その他の問題は『普通』もしくは、『例年より簡単』という問題も散見されたからです。

難しい問題にパニックを起こして全滅した受験生はかわいそうですが、冷静に気持ちを持っていけば、「難しい問題は一部で、意外と解ける問題も多いな」ということに気づくと思います。過去10年の流れでいれば、難しい年度であることに変わりありませんが、少なくとも昨年に比べて「底は打った」と私は感じています

理科は昨年度と同じくらい、と見ています。

以上、2023年度都立高校入試の講評でした。

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