④理科
ー「理科のプロ」による、「理科のプロ」のための問題。平均点は50点前後か。
私がもともと「社会」を専門とする文系人間だからだろうか。どうも近年に出題された都立の理科は好きになれない。問題(の答えを導くまでのプロセス)がくどいように感じるのだ。これは最近の都立中高一貫校の適性検査問題にも当てはまる。東京都としては(というより日本国として)科学技術立国になるような人材を育成したいのだろう。物事を論理的に考えつつ、科学的な思考をもった子供たちを増やしていきたい。それはそれで、もちろん間違っていないと思う。
ただ、じゃあなぜ、基礎になる「国語」や「英語」はスカスカなのだろうか?まったくの私感だが、今年の都立高校入試は「国語」よりも「理科」の問題を解くときの方が「読解力」を必要としたように感じる。
このシリーズ記事の①でも書いたとおり、「理科」の基本問題となる大問1と大問2は例年以上にシンプルだったように感じる。人間の消化器官、音の種類と振動、地震の初期微動と主要動の時刻の計算、電解、遺伝子、重力、脊椎動物・軟体動物の種類、平均の速さ、密度の計算、星の周期。どれも簡潔で分かりやすかったし、かといって簡単過ぎなかったのも良いと思う。理科のワークをすべて解いていればしっかり全問解けるような問題だが、知識が欠落していると取れないだろう。
大問3の地学もそういう点ではよかった。(今年は東日本大震災から10年だったので、大問3の地学は絶対に『地震』だと思っていました。失礼。)
天気は、天気図や上昇気流の仕組み、季節ごとの気圧配置などがしっかりと理解していればすべて解けるような問題になっていた。そして、大問1・大問2同様、知識が不足していると(問3の気圧配置の問題などは特に)答えられない問題だろう。シンプルですごくいい。努力して地道に覚えたことが問題の点数にダイレクトに直結する。昔、自分が受験したころ(90年代)の理科の入試ってこんなんだったな、と思い出したりした。
しかし。なぜか大問4、大問5、大問6はひたすら「くどい」問題が続く。最終的な解答はあまり複雑ではない。でも、前提となる実験方法や結果の説明がひたすらに長い。今年の都立中高一貫入試の適性Ⅱもまさにこんな感じ。
問題の傾向自体は都立理科は昨年、一昨年もこの形だったので、最初特に驚きはしなかったが、今年、最も「やられたな」と感じたのは、点数配分の仕方だ。すでに自己採点が終わった受験生の方々は重々承知の通り、今年の理科は大問3以降、ほとんどの問題で「完答」を義務付けているのだ。一つの設問に3ないし4の解答欄があるのに、そのすべてが合わないと1点ももらえない問題が続く。
「これはきついな」と、受験生の採点をしながら昨日はホトホト困り果てた。
「それぞれの単元をしっかり把握していれば、すべて答えられるに決まっているだろ。取れないのは勉強不足の証拠だ。」
私のお頭の中に、白衣を着てフラスコを手にしたハゲなおじさん(←私がイメージする典型的な理科の博士)がそう言っているようにも聞こえる…。
ま、そうなんですけどね…。
でもこれじゃあ、普通の「中堅」レベルの子は基本問題しか手が出ないだろ、とも感じる。しっかり受験勉強をしていれば、大問3まではとれる。しかし、大問4から大問6は、上手くいって各大問ごとに1つずつくらいの正答。普通に解いたら60点台がいいところだ。ボリュームゾーンの中堅層が60点台となると、平均は50点くらいということになる。実際、都立の理科は、昨年が平均点53点、今年も平均点は50点台前半くらいになるだろう。
何度も言うが、平均点というのは60点ぐらいが理想だ。都立入試だろうが、学校の定期テストだろうが。そして、「決して頭がいいわけではないけれど、地道に勉強を頑張ってきた」中堅レベルの子が、努力が報われて75点くらいをとれる問題が一番いいと、私は常々思っている。
今年の理科は、大問4以降も、取り立てて「難解」という問題はなかったと感じる。(あえて言うなら大問5の化学の問3。いわゆる「二段階計算」が求められる問題。あのベーキングパウダーの問題は数年前の高校生がやる「化学基礎」レベルの問題です。ま、指導要領も変わっていくのだから、特に問題ではないですが。)
ただ、理科という科目だけが突出して総合的な読解力や論理的思考能力を求めすぎている感がある今年の理科はあまり好印象を持てなかった。
まずは国語や英語や数学で、しっかりとした学力を身につけるのが基本だ。もう少し、問題をつくるときに、各教科、方向性の共有をしてバランスをとってほしい。
⑤社会
ーマニアックな問題と、「ゆとり」時代の使いまわしの問題が混在。平均点は60点前後と予想。
自分の専門科目のため、ついつい熱がこもってしまう「社会」の解説。
今年の都立入試問題は数学・理科ともに、難しい問題と簡単な問題が混ざり合っているな、という印象が強くあったが、その「ハリボテ」のような問題傾向の最たる例が今年の「社会」だったように感じる。
昨年の解説でも同じ点を触れたが、都立の社会は、過去に出題された問題のいわば「焼き増し」が毎年出題されている。社会という問題の性質上(法律の定義や、歴史の事実は変えようがないので)ある程度仕方がないことではある。よって、都立の社会で高得点をとる秘訣の一つは、ひたすら過去のバックナンバーとなる過去問に精通し、すべてを理解して入試に臨むことだったりする。「平成10年度から令和2年度まで23年分の過去問をすべて覚えていますよ」というような受験生は、ほぼ間違いなく入試当日の社会も90点以上取れているのだ。
今年の問題も、大問1の労働基準法の定義、大問2のニュージーランドの説明、大問5の地方公共団体への直接請求権、大問6のバブル経済の特長などは、いずれも過去10年以内の過去問にかなり類似した問題が出題されており、グラフや言葉のニュアンスを見ただけで答えがわかる、いわば「秒でとける」問題だったと感じた生徒も複数名いたようだ。
加えて、私は生徒達に、「今年は世界の歴史」が出る、ということをコメントしてきた。公民の「国際社会分野」が割愛される分、大問6の設問が手薄になる。今までの流れから考えれば、大問6は世界地図を出してくるのが常だ。公民で世界に触れられないなら、歴史で世界を俯瞰する問題が出題されるに決まっている。(ここで「世界地理」と考えてしまう人はまだまだです。)
事前に、中世・近代のヨーロッパの歴史の流れを生徒達に説明しておいてよかった。大問6の問1はピタリ。ちなみに、入試2日前の授業で「今年は国際連盟設立から100年だから、スイスに注目」と言っておいたが、こちらも問2でピタリ賞。
理科の大問3で「地震」問題を外した分は、なんとか取り返えせた…かな。
さて、問題(problem)は、大問3の日本地理だ。
「なんだ、あの問題は!?」
というのが正直な感想。
たしかに解けなくはない。社会が好きな生徒は解いていて面白さがあるだろう。私自身、個人的には「ゲーム」で謎を紐解いているような感覚で、ああいう問題は好きだ。ただし、それを万人に与える「公立高校の入試問題」にするのは違うだろ、と感じる。
大問3の問1と問2。問題の製作者は何を意図したかったのだろう?海流や風の向き、川や山の位置をイメージしながら解いてほしかったのだろうか?100歩譲って、そういう立体的な見方で地理を解いてほしいのならば、「ソフトウェア設計企業」や「電算センター」、といった余計な文言はいれないほうがいい。逆に、産業を前面に出したいなら、もう少しイメージがしやすいもの(『愛知のトヨタ』とか極めてメジャーでなくてもいい。せめて中学受験をする小学生が『四谷大塚の予習シリーズ』で習う程度の産業)をピックアップしてほしかった。
今年の日本地理の問題は、出題者が自分の社会の知識をひけらかしているかのようで不快だった。もちろん、これは入試に限ったものではない。公立の中学校の社会の先生方が作る定期テストの問題を見ていても感じることは多々ある。「あきらかにこれは中学校の内容ではなくて、高校の日本史レベルの話だぞ」という内容が中2あたりの社会の期末テストで出てくることがあるのだ。『入試に出る可能性がある』とか『関連して一緒に覚えないといけない問題』というのなら、まだわかる。しかし、後者の定期テストも、前者の今年度都立高校入試の問題においても、私は「出題をする意図」がわからないままだ。
さて、都立社会の平均点は、ここ数年、ずっと60点前後を推移している。(正確には平成31年度が『52点』とスポット的に下がっているが、概ね57点~61点の間に入っている)今年も同レベルとみていいだろう。前述の大問3や、今年は大問5の記述(地方分権に伴う法律改正について)など難易度の高い問題も出題されたが、公民を中心に易化した問題もあり、凹凸がお互いに吸収されているのではないだろうか。ずばり、平均点は60点前後だ。