① 国語
-無駄に迷わせる奇問が増えたが、平均点は高めだろう。
昨年(2020年度)は、81.1点!という驚異の(?)平均点をたたき出した都立高校入試の国語。
去年になって急に始まったわけではない。都立の国語は、平成29年度69.5点、平成30年度65.9点、平成31年度71点と、もはや「問題作成が下手な先生が作る、中学校の定期テスト」並みの平均点をつけている。「子供たちの国語力低下を案じて簡単な問題をあえて作っている」のか、それとも「国語をドル箱にして、受験生に自信を持たせたい」のか(もしそこまで考えて、あえて簡単にしているなら敬服しますが)、まぁでも、おそらく、東京都が一番「今年こそはなんとかしないと」と思っていたのがこの「国語」だったのではないかと想像する。やっぱり高校入試の平均点って(学校の定期テストの平均点もそうですが)60点前後にしないと、ね…。
ある意味で「いろいろ変えてきたな」と感じる科目だった。まず、小説の分量が長い。(文字数が増えましたね)しかし、都立国語にしては久々に小気味良いストーリーで、余程の活字嫌いでない限り、すらっと読める内容だった気がする。論説文も筆者が伝えようとしている結論がシンプルで読みやすい。ただ、設問は「あえて難しく作った感」が充満しているように感じた。塾講師の私なんぞが読むと、出題者が「受検者の混乱」を狙っている感があって、解きながら嫌になるほどだ。抽象的な表現を多用して判断が曇りがちな設問が多かったので、本来は大問3の小説で満点が取れるような人でも、1~2問落としてしまう人がいたかもしれない。大問4の論説は、例年もともと抽象的な表現が設問に出てくるが、今回は筆者のメッセージがはっきりしている文章だったので、逆に明快だった部分もあるかと感じる。
大問5の古文は、ここ数年出題された「現代仮名遣い」の問題が消滅。これで5点を狙っていた生徒は残念。問5は、文の中の修飾語を問う(しかも副詞)難易度の高い問題。例年の「現代仮名遣い」はもはやサービス問題に近く、こういう「やや難しめ」の設問にしたほうが、「国語っぽくていいかな」と塾屋としては思うが、受験生にとっては苦しかったかな。
全体として、昨年度の81点という平均点からは大幅に下がると思われる。が、しかしそれでも平均点は70点前後にはなるだろう。根本的に「国語レベル」が変わっていないからだ。設問の言葉遣いをかえて「ガワ」だけマイナーチェンジした感のある問題。これならいっそ、センター入試みたいに思いっきり難しくするか、(大人数受検だから現実的ではないけれど)中学入試のように考えさせる記述をバリバリいれるほうが生徒の国語力を測れていいのにな、と私は思ったりするのだが…。(入試を指導する側としてはもちろん大変になりますが…)
②数学
-問題の出し方に凹凸アリ。ある意味で難化したが、平均点は横ばいか。
数学の昨年度の平均点は61.1。おそらく今年もそれくらいで収まるのでないか。
大問1は極めて簡単だった。ここで46点満点が取れていない受験生は勉強不足か当日のプレッシャーに対する耐性に問題あり。問8の確率や問9の作図は「ゆとり教育」時代の問題を思いださせる。
大問3の関数も問1・問2は例年より安易。問2はやや時間がかかるが、関数の問題をある程度解いている受験生なら、「解き方が浮かばない」ということはないだろう、というぐらい簡単な問題だった。
逆に大問2は、「設問の意味」を一瞬では理解しかねる問題。いや、よく見れば簡単な問題ではある。ただ、図で説明している内容を、文章で上手く表現できていない。もはや図だけで十分では、とさえ思ってしまう。□1と□2の違いがなにか?(←結局は同じ。)読解力のない受験生は、ここで一気に混乱してしまう。問2の文字式証明も、求められている証明はとてつもなく難しいものではなかったが、上記の問1からの流れで、文章の読み込みに手間取り、時間との闘いで焦ってしまったことで本来の力を発揮できなかった受験生もいただろう。
大問4の問2は証明。今年はなんと、現行の入試制度(平成6年度~)になって初めての、いわゆる「三角形の合同証明ではない」証明問題。過去問を頼りに勉強してきた受験生は少し焦ってしまったかもしれない。「三角形の合同じゃない証明ってどうするんだっけ?」。テキストをしらみつぶしにやった生徒もしくは2年時の「三角形の合同」をしっかり覚えている生徒には有利だった。問題自体は非常にシンプルで、既存の二等辺三角形の底角と、長方形(並行)の同位角をつかうだけで答えが出てくるものだった。三角形証明しか覚えていない人も、「拙い言葉」でいいから、一つ一つ説明して書いていけば証明は出来たと思う。残念ながら、「わからない」と判断して書くことを諦めてしまった受験生もいる。こういう時に、「絶対合格したい」という執念と、「なんとか自分の知っている知識で解いてやろう」という適応能力が試される。この証明は、今年の都立共通テストで一番の良問だったのではないか、と私は捉えている。
大問5は、例年の三平方の定理が除外された部分。空間図形が出ることには変わりないが、果たして何がでるか?とワクワクしていた。(中3受験生には、この大問5対策として、事前に中1の空間図形をプリントで演習させていた。)
が、しかし。
問1、「ねじれの位置」かぁ。ちょっと予想外。もちろん、私の生徒に限らず、「ねじれの位置」くらい受験生はある程度把握しているはずだ。
でも、なんと台形型…。
「うわーみんな(俺の生徒)この問題、間違える~」と背筋が一瞬凍った私。
案の定、多くの生徒は「答え:6本」。すみません。先生が詳しく教えておけばよかったです…。
5本、と書いた受験生の皆さん。あなたは立派です。(ねじれは延長線上の交わりまで考える。その通りです。)
大問5の問2は、例年「超難関」(←都立共通にしては)問題のため、無理に追わず、都立最上位校受検者以外は、「捨て問」として扱っている部分だったが、今年は出題範囲になっていない三平方の定理を使えば、「意外と解ける」問題になっていた。(もちろん、三平方の定理を使わなくても解こうと思えば解ける。)塾に通ったりして、出題範囲に関係なく、過去問を何年分も解いて、三平方の定理をしっかり理解していた人には追い風だっただろう。
いくつか「落とし穴」的な問題があったので、数学は科目としては昨年に比べて「難化した」と言えるだろう。ただ、簡単な問題が増えて、凹が凸をうまく吸収しているので、平均点は横ばいを維持すると考えるのが妥当だ。
③英語
-今年は一気に易化。平均点は10点近く上昇する可能性あり。
昨年度の平均点は54点。一昨年度も54点。昨年の問題解説ブログでも書いたが、都立の英語は平成25年度くらいから徐々に難しくなっており、昨年度はかなり高度になったな、と感じた。スピード感や、出題の内容の是非はともかく、私はこの英語の問題難化には賛成の立場だ。今までの都立の英語は易しすぎた。これでは、3年後の大学入試(大学共通テスト)との差がありすぎて、3年間では対応しきれない。ぜひこのまま英語はどんどんプッシュしていってほしい。
ところが…。なにを血迷ったのか、今年の都立の英語は非常に「軽い」問題になっていた。平成24年(ゆとり移行期間の末年の入試)くらいの問題レベルと大差ない。単語数は確かに10年位前と比べて増えているが、設問の答えが簡単すぎる。はっきりいって、アンダーラインの前後を読めば、それらしい答えを見つけることができる程度の内容だった。ここ最近は文章全体をしっかり読まないと解けなかった大問3の「会話文」も、サラっと読む程度で問1から問6くらいまでは確実に全問正解できるような問題レベルだった。
英語は、5科目の中でも最も「二極化」が進んでいる科目だ。(幼いころから英語に触れている)英語ができる子にとって、今年の都立の英語の問題などもはや「準備運動」程度の文だ。おそらく、上位陣が点数を牽引し、平均点は60点台半ばくらいまで上がるのではないか。
コロナ禍で学習が遅れた中学生を「救済」するために簡単にしたのか?もし、そんな「忖度」をするなら、英語ではなく、理社で行うべきだった。このあとの記事で触れるが、今年の理科社会の問題は、(コロナ禍関係なく)一般的な中3受験生にはやや「オーバースペック」だと感じる。
学習量や進度が遅れた今年の入試は、国語・数学・英語でしっかりと「あるべき入試問題」を貫き、理科社会などの暗記系問題で多少の配慮を払ってほしかった、というのが一塾講師としての意見だ。
5科目全体としてのバランスにチグハグがあり、変に「配慮」を示した2021年度の入試問題。
次の記事では、理科社会の解説を行いたい。
2021年度都立高校入試の講評と予想平均点③「理科・社会」編 へ続く