都立高校の英語の問題(共通問題)というと、10年くらい前までは相当簡単な問題だった、と私は思っている。なにせ、英文が読めなくてもある程度解けたのだから…。
基本的に大問2の(1)と(2)はグラフや表を読めば、文の流れがつかめて答えが絞り込めた。(3)は文の最後の3行くらいを読んで、それと似たような文が書いてある選択肢が答えだった(笑)。
大問3の会話文(長文)は内容が3~4割しか理解できなくても、傍線部の代名詞が意味している単語を、傍線部の前後2~3行から見つけて、その単語を含めた文が丸々書いてある選択肢が答えだった。
大問4の物語文(長文)も似たようなもので、設問で聞かれている英文と同じフレーズを本文から探してその前後の文と同じ文が書いてある選択肢を選べば大体正答できた。
よって、学校で英語が「2」をつけられるような生徒でも、2~3カ月訓練すれば英語は50点以上、点数をとることができたのだった。
これほどまでに簡単なテストだったのに、当時の平均点は50点代(平成22年度は40点台)。残念ながら今の20代が(世代全体として)「ゆとり」と揶揄されてしまうには、それなりの理由があるのだ。
そんな、都立の英語が「難しくなってきたな」と感じ始めたのは平成26年度くらいから。
少しずつ「傍線部の前後から答え丸写し作戦」が効かなくなってきた。よって、学力下位生にとっては圧倒的に不利に。
英単語もchoose(選ぶ)や、close(近づく)など指導要領が新しくなったことを印象づけるものが増えてきた。
そして、決定的だったのが平成29年度の問題。ついに「答え丸写し」系がほぼ消滅。問題を解くときは長文をしっかり読み、設問の選択肢も一つ一つ読んで理解しないと答えられなくなった。大問2の最後についている英作文も、今までの「テーマが与えられ、好きな文を3文書く」という構成から、友人から来たメールについて、聞かれていることの返事を書く形に変更した(つまり、どんな問題かを予測できないので、事前に書く内容を何通りか準備しているだけでは対応できない)。
生徒たちにとっては酷だが、私はこの傾向は良いと捉えている。今までがあまりにも簡単すぎたからだ。
まがりなりにも英語を3年間学んだ15歳。あとさらに3年したら大学入試を受ける。海外に留学する子も出る。大学入試(特にセンター入試や新共通テスト)の問題と高校入試の問題の難易度があまりにも(プラス3年間で差を詰められないくらい)開きすぎていては良くない。それくらい、今までの都立入試の英語(共通問題)は甘々だったのだ。
さて、今年、令和2年度の英語の問題はどうか?
一言でいうと、
「さらに一段階、(いや、1.5段階位?)難しくなったな。」
という印象だった。
正直なところ、指導している側である私の予想を超えるほど難易度が上がった、というのが第一印象だ。
どこが、どう変わったのか。
まず、単語・熟語・連語が難しい。例えば、「make decision(決断する)」といったフレーズが大問3に登場する。decisionは英検準2級の範囲だ。改訂された新しい指導要領では中学英語で単語数が大幅に増える予定なので、もしかしたら今後中学生のテキストにも載るようになるかもしれないが、少なくとも今の中3生の多くは知らないだろう(中高一貫校の中3生はもちろん除く)。「in the past(かつては)」という表現や「supported by(~から援助を受けている)」などという表現も同様だ。
もっとも、しっかり想像力を働かせれば、中3なら解けなくはない。decideはすでに習っているし、「make+〇〇」という組み合わせがどんなものかもイメージできるはずだ。In the past という熟語を知らなくてもpastは習っているし、文末にあるから「過ぎた時」みたいなニュアンスで受け取れるはず…。「Supported byとかもテレビやラジオなんかでよく聞くだろ」といえばそこまでである。
そもそも、都立自校作成校や私立の高校入試であれば、「この単語は習ってません」などという言い訳はもともと通用しない。「わからない単語も含めて、前後の文脈で読み解きなさい」である。
内容もかなり難しくなった。大問3の会話文は「成人式」の話をしている場面だが、数年前だったら「振袖私も着てみたい~」程度の会話文になるはずだったのに、今年は「昔の日本は成人(元服)がもっと若かった」みたいな話から始まり、「成人するということは、親の援助なしに、自分で色々な決断をすることなんだ」というような道徳教育の文になった(ここでdecisionやsupportedなどが出てきた)。「元服」とか日本の歴史に疎い子は何となく読みづらかっただろうな、と思ったりする。
どこかの私立高校の英語みたいだ。私立の上位校も受験した層の受験生たちはある程度(私立対策もしていて)慣れていたとは思うが、基本的に「都立共通問題」である。偏差値30とか40の子もみんな受験するのだ。正直なところ、英語の偏差値が60を下回る子(つまり都立共通校の最上位クラスの受検生以外)は皆、相当苦しんで問題を解いただろうな、と想像する。
もちろん、これはこれで「高校入試」としては、良問だと私は思う。(何度も言うが、最終的にはこれくらいのレベルが高校入試としてはちょうどいい、と私は思っている。)
ただし…。
ちょっと急ぎすぎていないか?
少なくとも普通の、学力真ん中ラインの中学生は、今年の問題の変化についていけなかっただろう。
単語だけではない。文章全体も、今年の入試問題はなんとなく自然な会話調を意識した文になった。
大問4に出てきた「I`ll be all right.(大丈夫。)」というフレーズは、大人が見ると「すごく初歩的な英会話のレベル」と感じるかもしれないが、実は都立高校入試では私の記憶にある限り、初めて出た表現だった。それくらい、今までの都立高校入試の問題というのは、ガチガチの文法英語だったのだ。
これは明らかに、新しく始まる「英語の4技能化」(読む・書く・話す・聞く)を意識した問題だろう。
でも実際のところ、今の中3生はこうした会話的な文の流れにどれほど慣れていたのだろうか?
と心配にならざるを得ない。少なくとも様々な生徒達の英語力を観察するに、中学校では、まだまだ旧態依然の文法英語から抜け切れていない授業が続いている、と私は感じる。いや、学校の先生を責めるつもりはない。私個人の意見としては、文法英語に特化した従来の学習でも一つの科目として成り立っていると感じるし、そうした学習方法でも上記のようなより自然な会話調の英語の問題を解く訓練をすることはできると思っている。
いずれにしても、今年の英語の問題に関してのみ言うならば、「今年の受験生(中3生)たちの多くに、この問題を解かせるための準備(訓練)をさせる機会が十分に与えられていたのか」と考えたときに、私は疑問符を付けざるを得ない、と判断する。
そうであるならば、入試だけ先走ってもダメだろう…?
今回の都立高校入試の英語の問題を見ていると、受験生たち本人が何となく取り残されたような感があって悲しくなる。
もっとも、若さゆえに適応能力に満ちている、というのが15歳・中3受験生の武器でもある。私が今年担当した生徒も、(英語は全体的に苦戦を強いられたが)なんとか首尾よく切り抜けてくれた。かつて子供の時に英会話を習ってきた受験生もたくさんいただろうし、そうやって「上手く乗り切る」子が沢山いるので、恐らく平均点もなんだかんだといいながら50点を超えるぐらいのところに落ち着くのではないだろうか。
(※2020年9月追記 今年度の都立共通英語の平均点は54点でした。)
私の中では、今年の都立共通の英語の問題を受けて、次年度どのようにこの英語の問題で点数を取っていくか、すでに戦略は出来上がっている。大森山王学院でも、都立共通を受ける受験生にはその方法を実践していく予定だ。次年度、(おそらく難易度が上がることはあっても、下がることは決してない)都立共通の英語で必ずや高得点を生徒たちに取らせて見せる。
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最終更新:2022年6月26日