5月に書いた記事「塾講師がお勧めする映画」シリーズの第二弾。
昨日の授業の合間に、三谷幸喜監督の映画「記憶にございません」の話を中学生や高校生にした。
昨年の映画公開時に予告編を見て、「DVD化されたら絶対に観よう」と決めていた映画。(←古い人間なので、アマゾンプライムとかいう発想がないのです。)とはいえ、毎日忙しくしているうちにあっという間に10月になり、先週の土曜日にようやくTUTAYAに行くと、もはや「準新作」扱いになっていた。
やっぱり、さすが三谷作品。いい映画だった。
中高生にお勧めしたいのは、二つの理由がある。
一つは、日本の政治・社会のシステムをコミカルに描いている、ということ。
はっきり言って、大人から見ると、特段「あ~そうなんだ」と勉強になるものは何もないだろう。与党、野党、国会の委員会での質疑、閣議、官房長官、外交、忖度、賄賂、利権…。
「日本はなぜアメリカとの関係を重視しなくてはいけないのか」「なぜ政治の世界には秘密ごとが多いのか」「なぜ総理はすべての質問に答えないのか」…。
大人から見ると、なんてことはない話題ではある。でも、「賄賂ってなに?」という質問が普通に飛び交う現代の中学生には、政治の世界について触れるにはもってこいの映画だと感じた。
中3になって、社会の「公民」分野を学ぶときに、その子が世の中の出来事をどれほど知っているかが一気に露呈される。(地理や歴史は暗記で何とでもなるので、テレビのニュース等をほとんど見ない子でも高得点は取れる。)普段から、ご家族で世の中の動きをテレビなどを見ながらどれほど話しているかも、「公民」の理解度を見ていると私たち塾講師はある程度把握することができる。
もちろん、すでに中学生になっていて、自分が政治や経済のことをあまり知らないことを嘆いてもしょうがない。とりあえず、付け焼刃でもいいから理解しないと。かといって、日経新聞を読むのは難しいし、池上彰の番組を月一で待っていては時間が足りない。
では、なんとなく「世の中の動き」が120分で面白おかしく理解できる映画はいかがだろうか。
ちなみに、「政治や経済のことならまかしとけ」という(クイズ番組に出れるほどの)社会博士の中高生が観ても、いろいろと面白い映画だと、私は思う。
(解答してくれるかどうかはわからないが…)中高生限定で、映画を見て、以下の質問に答えられる社会博士の人は、ぜひ塾の「お問い合わせフォーム」から回答してほしい。
1)黒田内閣の中にいる、背広に短パンを履いた大臣は、歴代のどの議員を模しているでしょう?
2)黒田総理が英語をすべて忘れてしまったとき、秘書が「Me too作戦で行きましょう」と言います。この「Me too作戦」は歴代のどの総理大臣のことを模しているでしょう?
3)鶴丸官房長官が言った「歴史は繰り返されるのだよ」といったのは、どの歴史(どの時代のどの人物)のことを指していたのでしょう?(←これは複数回答あり)
もちろん、答えを出してもそれは三谷幸喜監督の公式解答ではないので(笑)、あくまで私なりの解釈でしかないが…。全部正解していたら(あるいは私の解釈とは違っても、根拠がある解答が出せる中高生がいたら)大森山王学院のブログで発表したいと思う。
(※ただし中高生のみです。インターネット等で調べたりSNS等で広めて解答を求めることはNGです。親御さんに聞くのはありです←親子の会話の題材にしてください。ペンネーム・ハンドルネームでも構わないので、名前と学年を記してご回答ください。)
この映画を中高生に観てほしい、二つ目の理由。それは「人ってやり直せるんだよ。」という教訓があることだと私は思う。
少しネタバレになってしまうが、記憶をなくした主人公「黒田総理」は、当初自分が総理大臣であることに戸惑い、「自分にはこんな仕事はできない」と思うのだが、周りの人から「すべての記憶を失ったあなただからこそできることがある」と励まされて、国のために一国の総理として奮闘していく、という映画だ。
私は、この映画を見て考えさせられた。「自分も過去のトラウマやしがらみをすべて忘れて、ゼロベースで考えて物事に取り組んだら、もっといろいろなことができるのではないだろうか?」と。
だれでも、過去の記憶や、あるいは今までに構築されてきたいろいろな事情に絡まりながら毎日を送っている。それには良い面もたしかにあるが、大抵はマイナスの要素も沢山あって、「良い方向へ変化しよう」と動き始めるときには、足かせになってしまうことも多々あるはずだ。
中高生の皆さんも同じではないだろうか。だれしも、15歳、18歳になるまでに構築してきた経験がある。記憶がある。センスがある。
それが時に、良くない方向に足を引っ張ることがある。なにかをやろうと思っても「無理に決まっている」と躊躇してしまったり。実際に動き始めて上手く成果が出ないときに「自分にはこんなことできないよ」と諦めてしまったり。
でも、それはすべて過去の経験やトラウマに引っ張られているだけではないだろうか。
もし、あなたが記憶を失って、自分というものがどんな人間だったかを知らなくなったら、過去の失敗を気にして、「また同じ失敗をしたら…」などと考えなくてよくなる。「誰かが良く思わないかもしれない」とか、「自分のことをあざ笑う人がいる」といった心配もしなくていい。結果がすぐにでなくても、「この作業で結果を出すには時間と継続的な努力が必要なんだ」と思うだけになる。
それって、すごく気が楽になるし、もしかしたら最終的には思わぬ結果になるかもしれない。
「もう一回、頭をまっさらにして、最初からやり直してみよう。」
そんな気持ちにさせられる、且つおもしろおかしい三谷映画。
皆さんもぜひお時間のある時に。お勧めします。
追記:ちなみに、私は主人公黒田総理の小学校時代の先生が言うセリフに感動しました。記憶を失ってひ弱になった総理が「国民の皆さんからいただいた税金でこんな広い部屋にいるなんて申し訳ないです」と言うシーン。「先生」の返答は見事でした。ああいう「先生」にいつか自分もならなくては、と感じた次第です。